扉の先はローラント城でもっとも豪華でもっとも神聖な部屋である『翼あるものの父』の間につながっていた。
そこは長方形の部屋を三階層に分け、一番上に『天の座』、中階層に謁見の間、そして扉から入ってすぐの所を控えの間とし、それを貫くように中央に階段が作られている。
そのその控えの間の階段の所に二人のナバール兵が立っていた。
「あなた達は!?あのときのナバール兵!!」
「ビル!?ベン!?」
リースとホークアイが彼らを見て叫んだ。
「答えなさい!王子を、エリオットをどこにやったの!?」
リースが槍をつきつけながら問いつめる。その穂先には、普段の彼女には考えられないくらいの尋常でない殺気が込められていた。
だが、そんなリースの態度にも全く表情を変えず、無表情にただ告げた。
「「知らんな」」
「くっ!」
その言葉に飛びかかりそうになったのを、ホークアイが手で止めた。
「ちょっと待ってくれ。おい!ビル、ベン!!俺だ、ホークアイだ!わからないか!?」
ホークアイは二人のナバール兵に向かって必死で呼びかけた。
しかし、二人のナバール兵はまるでホークアイのことが目に入ってないように勝手にしゃべり始めた。
「ここから先には行かせない」
「美獣様のじゃまをさせるわけにはいかない」
「覚悟してもらおう」
「ここで朽ち果ててもらう」
まるで人形のように話している二人は、全くの同時に全く同じ印を、全く同じ早さで紡ぎだした。
「「秘伝忍法『合体変化』!」」
すると、二人の体がお互いに引き寄せられるように近づき、そのままの絵を重ねたように互いの姿が重なっていった。
二人の姿が完全に重なると、そこには先ほどの二人とは違う忍者がまるで影のように立っていた。
「さぁ、死んでもらおう」
そう言ったとたん、元ビルとベンであった忍者は襲いかかってきた。
「散れっ!!」
デュランが全員に声をかける。
「ちぃっっ!やるしかないのかよ!?」
ホークアイが舌打ちしながらダーツを取り出した。そして指に挟んだダーツ数本をいっぺんに投げつける。
――ヒュンッ、カンッ!――
ビル&ベンはそれを手裏剣を使って打ち落とす。
「たぁっっっ!!」
リースが槍を突き出すが、それを手に持ったくないで受け流すとそのまますれ違い様にリースの肌を切り裂く。
「くっ!」
腕を切り裂かれたリースは少し離れて体勢を立て直す。
その間にデュランが代わりにビル&ベンに剣を振り下ろす。
――ガンッ!――
それを手甲で受け止めたビル&ベンは、すかさずもう一方の手に持ったくないでデュランを切り裂こうとする。
「シッ!」
――キンッ――
それを横からホークアイがロンデルダガーで防ぐ。
「チッ!『火遁の術』」
――ボオォッッンッ!――
「うわっ!」
くないによる攻撃を防がれたビル&ベンは、火薬を使ってホークアイを吹き飛ばす。
「『土遁・・・」
「させるか!」
再び忍術を使おうとしたところを、獣化したケヴィンが横から跳び蹴りを放ちビル&ベンを吹き飛ばす。
「うぐっ!」
壁にたたきつけられたビル&ベンは微かに呻いたものの、すぐさま体勢を取り直し、今度はアンジェラに向かって攻撃してきた。
「くそっ!」
デュランがすぐに向かうが、忍者の素早さには到底及ばない。
「死ね!」
ビル&ベンのくないがアンジェラに襲いかかる。
「アンジェラ!」
デュランが思わず叫ぶ。
「・・・グッドタイミング」
その時、アンジェラは不敵な笑みを浮かべて手をビル&ベンに向けた。
「『エアブラスト』!」
その瞬間、アンジェラの手の先から小型の竜巻が生まれ、ビル&ベンに直撃した。
「ぬおおぉぉぉぉぉっっっっ!!!」
ビル&ベンに直撃した小型竜巻は、その身を中型の――しかし人一人ぐらいは完全に飲み込めるほどの激しい竜巻となり、ビル&ベンを切り裂いていく。
この竜巻は先のジェノア戦でシェイプシフター達を一掃した風を圧縮したものである。部屋全体に展開した先の戦いとは違い、一点集中された風の威力は想像を絶する。
「くっ、おのれぇ、おぼえていろ!」
竜巻によりボロボロとなったビル&ベンはデュラン達を憎々しげに睨みながら、煙を出して姿を消した。
「はん、代わり映えのしない捨てぜりふね」
アンジェラはそう言って鼻を鳴らした。
「大丈夫か、アンジェラ!?」
すぐに近寄ってきたデュランが心配そうに聞いてきた。
「大丈夫よ、あいつの攻撃かすってもいないんだから」
「ならいいけど・・・」
デュランはアンジェラのいつも通りな態度にほっと安心した。
「それよりも、早く先に行きましょう。大ボスがいるんでしょ?」
「まぁ、確かに大ボスって言えば大ボスだな」
アンジェラの言葉にホークアイは苦笑して、しかしすぐに表情を引き締めた。
「さぁ、アンジェラ嬢の言うとおり大ボスが待っているんだ。気を引き締めて行こう」
そういってホークアイは階段の先を見上げ、ゆっくりと上っていく。
デュラン達もそれに続いて階段を上っていった。
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