−風の回廊−
天かける道の中でも最も難所といわれ、奥までたどり着いた者はほとんどいないと言われる。
各要所に原理不明の可動式の風神像がおかれ、そこから吐き出される突風が行く手を阻む。また、モンスターも多く出現し、天かける道に多く出現するニードルバードやハーピー、ゾンビのほかに、全身を鎧に包んだ、堕ちた騎士アーマーナイト、相手の体を小さくするチビデビル、宝箱に扮して獲物を待ちかまえるオーガボックスなど多彩な敵が侵入者を待ちかまえている。
そんな行路をデュラン達はドン・ペリに会いに行ったあの六人だけで進んでいた。これはただ単に戦闘力を見て、ついていけそうな者をみたらこうなったのである。
「だあぁぁぁぁぁっっっっっ〜〜!!」
――ザンッッッッ!ザシュッッッ!!――
デュランは目の前をうっとうしく飛び回るニードルバードを切り裂いていく。モンスターの体液で、汚れた剣や鎧に羽がまとわりつき、デュランが鳥になったようであった。
「でぁぁぁぁっっ!」
――ガゴンッ!!――
ケヴィンはアーマーナイトに跳び蹴りを食らわせた。
――ズゥッッンッッッ!――
その攻撃をまともに食らったアーマーナイトは壁際まで吹っ飛び、血を吹きあがらせながら体をめり込ませる。
「遅い!!」
――ザンッッ!――
リースは群がるゾンビ達をコルセスカで薙ぎ払う。その際、彼らの吐く毒霧や腐汁は彼女に全くふれることはない。
またホークアイも影のように戦場を駆け回り、仲間に攻撃しようとした敵の急所を突き、片っ端から息の根を止めていく。
それでもマナストーンまでの道のりは困難で、朝に出発した六人がマナストーンのところまでついたのは、その日の夕暮れだった。
「これがマナストーン・・・」
六人は初めてみるマナストーンに圧倒された。
「これの力を使えばクラスチェンジが・・・」
デュランがふらふらとマナストーンに近づいていくと、いきなり頭の中で声が響いた。
〈デュラン、悪いけど今のあなたじゃクラスチェンジの衝撃に耐えられないわ〉
フェアリーがデュランの体から出てきた。
「は?それってどういうことだ!?」
デュランがくってかかるとフェアリーはまじめな顔で、
〈だから、今あなたの実力じゃあマナストーンのエネルギーを受け止め切れないってこと〉
「マナストーンを見つければだれでもクラスチェンジできるんじゃなかったのか?」
デュランの言葉にフェアリーはため息をついて、
〈あのねぇ、もし誰でもクラスチェンジができたら世の中クラスチェンジした人間ばかりになってしまうわよ。普通は何十年も厳しい修行を積んで、悟りを開いたりとか、そういった人しかクラスチェンジはできないの〉
フェアリーの言葉にデュランは意気消沈した。
「そんな時間なんてねぇよ・・・」
〈まぁたしかにそうねぇ・・・。う〜ん、普通はいけないんだけど、あなたには女神様を助けてもらわないといけないし・・・。仕方ないわね、精霊を半分、いえ五体以上味方につけられればその力でどうにかなるとおもうわ〉
フェアリーの約束にデュランは喜んだ。
「ホントか?」
〈たぶんね、確証はないけど。それよりジンはどこに行っちゃったんだろう?〉
六人があたりを見探していると、ホークアイがみんなを呼んだ。
「おい、こっち!」
みんなが集まると、ホークアイは地面を指し、
「ここに足跡がある。こんな風の強いところで形がはっきりしているのを見ると、今さっき通ったあとのようだ」
六人は足跡をたどっていった。
足跡は外に突き出た広めの崖のところに向かっていた。
六人がその崖に出ると、そこには漆黒の鎧を着た騎士と、青い肌の小型の魔人がいた。
〈あれはジン!〉
フェアリーが小型の魔人を見て言った。
漆黒の騎士はジンに向かって何か魔法をかけているようだった。
「おまえ、ジンになにをしている!?」
六人が飛び出すと、相手は一瞬こちらを見て、ジンに向き直り呪文の詠唱を続けた。
「−封印されし古の魔よ、我が呼び声に応えよ!古の契約より我が命に従え!−」
漆黒の騎士が呪文を唱え終わると、ジンの体が徐々に透明になり空に吸い込まれていった。
「てめぇ、いったいなにをしやがった!!」
デュランがそういいながら斬りかかると、漆黒の騎士はそれをさらりとかわし、新たな魔法でその場から消えた。
「くそっ!」
デュランが悪態をつくとフェアリーが警告してきた。
〈みんな気をつけて、何か来るよ!〉
フェアリーが空を指すとそこに漆黒の空間が現れ、そこから一羽の巨大な鳥が翼を閉じたまま出現し、地面に向かって急降下してきた。
「あれは、古代の魔鳥ツェンカー!!」
リースが叫ぶと同時に翼が開き、その全容が明らかになる。
その姿は四肢は鷲、体と顔は髪の長い美女で構成された半人半鳥だった。
翼を開いたことで減速したツェンカーは六人をじっくりと見て、その顔に歓喜の表情を浮かべた。
――ケシャアアァァァァァッッッッッッッ――
その紅唇から紡ぎ出された声は猛禽類の雄叫びだった。
「散れっ!!」
ホークアイが叫び、みんなが散開するとツェンカーが急降下しながらそのかぎ爪で襲いかかってきた。
「ひゃぁっっっ!」
最初に狙われたのは一番戦闘力のなさそうなシャルロットだった。
「危ない!」
――アウォォォォォォッッッン――
――ガンッ!――
ケヴィンが獣人化し飛び出し、今にもシャルロットを捕まえようとしたツェンカーに跳び蹴りを食らわせた。
ツェンカーは悔しそうな声をあげて、再び空に戻った。
「くそっ!空じゃ剣が届かない!!」
デュランが歯がみするとアンジェラが進み出て、
「私に任せて!」
そう言って彼女は杖を振りかざし呪文を唱え始めた。
「−大地より生まれし輝きよ、悪意ある者達に鋭き刃を−『ダイヤミサイル』!」
――シャァァァッッッッン――
地中からダイヤの欠片が飛び出し、その鋭い輝きでツェンカーを串刺しにしようと襲いかかる。
――ケシャァァァァァッッッッ!!――
ツェンカーはその攻撃をもろに受け、傷つき降下してきた。
「よっしゃぁ!!」
デュラン達が早速ツェンカーに攻撃をしかけようとした。
――クシャァァァッッッッ!――
――ズザァァァァァァァッッッッッッッッッ!!――
「うわっ!!」
デュラン達がまさに攻撃をしかけようとしたとき、ツェンカーの魔力が高まった。
そしてその周りで強風が渦巻き、その中を真空の刃が縦横無尽に踊り狂う。
デュラン達はもろにその攻撃を食らい、体中に切り傷を作った。
「『エアブラスト』だわ・・・」
その魔力の高まりからアンジェラはさっきの技の正体を見極めた。
「くっそっ〜!」
――ケシャァァァッッッッッッー!――
ツェンカーは再び空に舞い上がり、次の獲物=アンジェラに向かって襲いかかってきた。
「キャァァッッッーーーー!!」
「アンジェラ!」
「どけ!!」
思わず叫んだデュランの横からホークアイが飛び出す。
「ハッ!!」
ホークアイの手が霞み、何かがツェンカーに向かって飛び出していく。
――シャァァァァッッッッッッッッッーーー!!――
アンジェラに襲いかかろうとしていたツェンカーが急に顔を押さえて暴れ出した。
よく見ると、両目に二本のダーツが刺さっており、そこから紅い血が噴き出していた。
「くらえっ『旋風槍』!」
そこですかさずリースがその槍を突き出す。
強力な回転がかかった突きは、ツェンカーの右翼をえぐるように貫く。
目を潰され、地に落ちたツェンカーはもはやデュラン達の敵ではなかった。
「それではいくダスー」
ジンが力をため、風を操る。
――ブワァァァァッッッッッッーーーーー!!――
ツェンカーを倒したことで体内に封印されていたジンを救い出したデュラン達は、早速ジンに協力を求めた。命の恩人であるデュラン達に、ジンは気前よく協力を申し出た。もちろんそこにはフェアリーの存在と、彼女の言う危機の存在も関係していたことは言うまでもない。
そして現在、ローラント城奪回のために、秘密アジト前の花畑でジンが風を起こし、眠りの花=バドフラワーの花びらをローラントへと送り届けていた。
月明かりの中、無数の花びらはローラント城中に入り込み、飾り立て、染め上げ、深夜の風の城を花の城へと変貌させる。
アマゾネスとデュラン達は花びらの敷き詰められた城へと踏み込んでいった。
「でぁぁぁぁっっっっーーーー!!」
中庭では眠り花に耐性を持っていた兵士(眠り花は一度眠ってしまうと、次からは耐性が出来る)が、突入してきたアマゾネス軍と応戦していた。デュランもその中に混じって不思議な黒衣装に包んだナパールの兵士達戦っていた。
その横では獣化したケヴィンが雄叫びを上げながら敵を殴り飛ばしていた。
「俺は先に頂上に行って頭を潰す!」
そう言ってホークアイが城壁に走っていった。
――タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、――
ホークアイは壁に足をかけると、そのまま地面のように壁を駆け上がり始めた。よく見れば壁のわずかな出っ張りに足をかけて飛び上がっているのだが、それでも常人離れしすぎている。
「私も行きます!」
リースもそう言って壁に走っていった。
「はっ!!」
リースは壁を蹴って飛び上がると、その跳躍の頂上で石壁の隙間にその槍を差し込んだ。そして、それをバネにもう一度飛び上がり、弧を描くようにして回転しながら城壁の上に立った。
「すげ・・・」
デュランはそのこれまた人間離れした動きに思わず見とれてしまった。
「見てないで、オイラ達も、いこう」
そう言ってケヴィンがデュランの腰をつかんだ。
「へっ?」
デュランがケヴィンの方を見ると、反対側に同じような格好のアンジェラがいた。
「ちょっと、いきなりなんなのよ!」
アンジェラもケヴィンに文句を言っているが、ケヴィンは素知らぬ顔で、
「いくぞ!」
「うわぁぁっっっっ〜〜!!」
「きゃぁぁっっっ〜〜〜!!」
ケヴィンは城壁の角でいきなり飛び上がると、跳躍の途中で壁を蹴りつけ、そしてすぐまた近くのの壁を蹴りつけて・・・と、俗に言う『三角蹴り』と言うのを繰り返しながら城壁を上っていった。
「ふわぁぁ〜〜〜!ケヴィンしゃんもやりましゅねぇ〜〜」
その下では、救護隊に組み込まれていたシャルロットがのんきに声を上げていた。