デュラン達が城壁に上ったときには、すでに何人ものナパール兵が倒れていた。その先にはリースがナパール兵縛って転がしている。
「王女!ホークアイは!?」
デュランが少々ふらつきながらリースに駆け寄ると、何故か顔を真っ赤にして、
「か、彼ならこの先の偵察に・・・。わ、私はこの者達を縛ってから来るようにと・・・」
リースは話しながら、多分無意識だろうがまるで何かを隠すように右頬に手をあてた。
「どうしたの、頬に怪我でもしたの?」
「い、いえっ!!そ、そ、そんな、わ、訳ではなくて!!・・・と、とにかくホークアイを追いましょう!!」
「「「・・・?」」」
不審な目をする三人を無理矢理おしリース達は城の頂上に向かっていった。
「この部屋を抜けると最後です」
リースと共に頂上目指して走ってきたデュラン達は一つの小部屋の前にたどり着いた。
「トラップとかあるのかな?」
アンジェラが一応聞くが、無いわけがないとみんなは理解している。
「いきますよ」
リースが槍で扉を切り裂く。
そこにはなんにも無い殺風景な部屋だった。唯一向こう側に通じる扉の周りにだけ、悪魔をかたどった大きなオブジェがその口で扉をくわえ込むようにたたずんでいた。
四人はゆっくりと部屋の中に入り、周りを気にしながら扉に近づいた。
そしてまさに取っ手に手を伸ばしたその時、
「あぶないっ!!」
――ボォッッッッッ!!――
いきなり現れたホークアイがリースを引っ張るのと扉が火に包まれるのは同時だった。
そして、扉をくわえ込むように作られていたオブジェの目がゆっくりと開き、悪意に満ちた瞳をデュランたちに向けてきた。
「こいつはな、ジェノアといって古い遺跡なんかで門番(ゲートキーパー)をしているモンスターなんだ、っと!」
そういってホークアイはジェノアの口から現れた黒い物体を、手に持った鍔と柄が円盤状の短剣=ロンデルダガーで切り裂いた。
切り裂かれた物体は両断された人型の形になって床にたたきつけられる。
「ったく、何でこんなやっかいなものがここに・・・。気をつけろよ!こいつはシェイプシフターを召還してくるからな」
そういってホークアイは再びでてきた黒い物体=シェイプシフターにダーツを投げつけた。
だがシェイプシフターはダーツに一応怯んだもののすぐに立て直し、もぞもぞその姿を人型から真っ黒なアサシンバグの形へと変化していく。
「うげっ!きもちわりぃ〜」
変態の過程をみたデュランは思わず声を漏らした。
「はっ!」
変態中のシェイプシフターにケヴィンが拳をたたき込む。
だが、ジェノアはまだまだシェイプシフターを呼び出してくる。
「じゃまねぇ!みんな、下がって!!」
アンジェラは、わらわらとわいてくるシェイプシフター達に向かってかしの杖をかざした。
「―清廉なる風よ、罪深き者に断罪の剣を―『エアブラスト』!」
アンジェラの杖から突風が生まれ、鋭い刃の嵐となって部屋の中を荒れ狂う。
精霊の力が宿った風はシェイプシフター達を容赦なく切り裂いていく。
「うん、よしっ!」
アンジェラが自分の成果に満足していると、ギロッとジェノアの瞳がアンジェラの方に向いた。
「危ねぇ!」
「危ない!」
「きゃっ!」
デュランとリースは、アンジェラに向かってジェノアの口から飛んできた三発のファイアーボールを、手に持ったブロードソードよコルセスカで一発ずつたたき落とす。しかし打ち落とせなかった一発がアンジェラのかしの杖に当たってしまった。
十分に乾燥させた樫で作られた杖は簡単に燃え尽きてしまう。
「ちっ!おい、アンジェラ大丈夫か!?」
「私は平気よ!でも杖がないから魔法を使うのに時間がかかるけど」
デュランは眉をひそめた。戦いにおいて特に敵との距離が近いほど、早さは重要になってくる。
「ねぇホークアイ!どうやったらあいつを倒せるの!?」
リースが新たに現れたシェイプシフター達を切り裂きながら訪ねる。
「ジェノアの口の周りにある牙の部分を砕いてくれ!後は俺が何とかする!!」
床から急に現れる槍のトラップを交わしながらホークアイが言う。
「わかったわ!デュラン、ケヴィン、道を開いて!!」
リースの声に二人はジェノアの間に立ちふさがる敵を蹴散らし始める。
「やぁっっっーーーー!!」
ついにジェノアの所までたどり着いたリースは渾身の突きを繰り出す。
打ち込まれた槍はジェノアの牙に無数のひびを入れ、砕け散らす。
「よしっ!」
それを見たホークアイは懐から文字が刻まれた青いコイン取り出し、刃でその文字を削り取る。するとコインが徐々に発光し始め、急にコインが冷たくなってくる。
ホークアイはそれを確かめ、コインを牙にじゃまされていたジェノアの口の中=炎に投げ入れた。
――ヒュオォォォッッッーーーー――
炎の中に入ったとたん、コインから絶対零度の低温が漏れだし、炎の勢いを弱める。するとジェノアの力が目に見えて落ち始めた。
それを見届けたホークアイは黄色いカボチャ=パンプキンボムをまたジェノアの口の中に投げ込む。
―ボンッッt!!―
ジェノアの口の中ではじけたパンプキンボムは、弱っていた炎をその爆風で消し去った。
――フォォォッッーーーーー――
口の中の火が消えたとたんジェノアからこれでもかというほどの殺気が消え、その体にひびが入る。そしてそのひびがジェノアを隙間なく覆うとジェノアは音もなく崩れ去り、そこには塵一つ残さなかった。
「ふぅ、さて先に進むとするか」
ホークアイはジェノアの消滅を見届けるとすたすたと扉の方に向かっていった。
まるでそれ以上罠がないことがわかっているかのように迷いなく歩いていく彼に、 デュラン達は一応用心しながらも彼についていった。